第6章 幻月
リビングに入ると、声がした。
「大野くん!しっかり…!」
保健室の…相葉先生…?
なんで…なんでここに…
「嫌っ…嫌だぁあああっ…」
「ちょっ…大野!落ち着けって!」
「学校のっ…先生っ…連れ戻されるっ…もう、戻りたくないっ…家に戻りたくないっ…」
「大丈夫だから!お母さん、病院に入ったから!」
「…え…?」
松本が何を言ってるのか、理解できなかった。
「ちょっと!アンタ!なんで黙ってんだよ!大野になんか言ってやれよっ…」
アンタ…?
松本の目線の先。
相葉先生の後ろに、見たこともないような怖い顔をした櫻井先生が立っていた。
「翔ちゃん…?どうしたの…?」
相葉先生が後ろを向いて、なんか言ってる…
でも、先生は俺をじっと見てる。
どうして…?どうして先生たちがここに…
「…大野…すまん…お父さんとは話をつけたから…もう、大丈夫だから…」
櫻井先生の声がして。
「松本くん、ありがとう。俺が運ぶから」
「あ、ハイ…」
松本の腕から、先生の腕に包まれた。
せんせい…?
じっと、先生は俺の顔を見てる。
こわい…なんで…
俺のこと、疑ってるの…?
母さんを閉じ込めて…家をめちゃくちゃにしたのは俺だって…そう思ってるの…?
体が強張った。
逃げなきゃ…連れ戻される…
動こうとした瞬間、先生は顔を伏せた。
「ごめん…大野ごめん…気づいてやれなくて…ごめん…」
ボロボロと俺の上に、涙が降ってくる。
「櫻井…先生…?」
目がぼやけて…よく見えない。
先生…疑ってないの…?
「俺の家に行こう…?ずっと居ていいから…な…?」
「本当に…?」
「ああ…行こうな…大野…」
「先生とずっと一緒に居てもいいの…?」
生きてても…いいの…?
「いいに決まってるだろっ!」
本当に…?
嬉しい…
先生とずっと一緒…
ハンカチをくれた先生
シャツを貸してくれた先生
父さんから庇ってくれた先生
大丈夫だよって
背中をさすってくれた先生
助けに来てくれた先生
嬉しい…
…生きてても…いいんだ…
「…翔ちゃん、俺、ここに残るよ」
「え?」
「大野くんの私物回収する。あと…なんかクスリやらされてないか、確認するから」
「あ…」
「だから、先行ってて?後は俺が責任持つ」