第6章 幻月
その瞬間、ぎゅいいいんとスピードが上がった。
「ふぎゃっ…」
真ん中に座ってる仁科が飛んでいきそうになった。
慌てて相葉先生と俺で、仁科を掴んでシートベルトを付けさせた。
「と、父さん!」
「ヤバいって、何がヤバいんだ!」
「えっ…だから、その…」
「なんでそんなところに友達を置いておくんだ!」
「そこしかなかったんだよ!家出なんかしてきたやつを置いてくれそうなとこが…家に連れて帰ってきたら、母さん興奮して倒れるだろ!?」
「今度から、そういうことがあったら家に連れてきなさい!父さんがどうにかするから!」
そう言って乱暴にハンドルを切った。
「どういう人なんだ。その家の人は」
「あ…小学校の時の、友達で…」
「小学校!?前の家に居る時の友達か?」
「…優しかったんだ…」
「え?」
「家に帰れなかった俺の傍にいてくれたんだっ…」
泣きそうな声で、松本が答えて…
「…そうか…世話になったのか…」
「……うん」
「じゃあ、父さんも挨拶するから…」
「先輩にならいいよ…それに家の人なら、居ないよ…」
「え?」
「先輩は、小学生の頃から離れで一人で暮らしているんだ…家の人は母屋に居て、ほとんど会ったことない…」
「…そうか…」
それきり、松本親子は黙り込んだ。