第6章 幻月
「母さんっ…」
「ああ…ごめん。なんでもないのよ…」
ふらりと立ち上がった。
すっとお父さんが来て、後ろからお母さんを支えた。
「もう休んでいなさい…な?」
「でも…」
「潤には私が付き添うから。もう寝ていなさい。一緒に行って倒れたりしたらご迷惑だろう?」
「…わかりました…潤、気をつけていくのよ…?」
「わかったよ…ちゃんと寝ててよ?」
「うん…」
お父さんがお母さんを寝室に連れていって、すぐに戻ってきた。
「では、うちの車で行きましょう」
そう言って、車のキーを取り出した。
「いえっ…そんな!ご迷惑をおかけするわけには!」
「いいんですよ。潤の友達のことなんだから…さ、潤。行こう」
「…うん…」
松本親子の後に続いて家を出た。
車庫には白のハリアーが入ってて、後ろのシートに俺ら3人は座らせてもらった。
前には松本親子が座ってる。
「では、行きます」
松濤の住所を予めナビに入力して、車は出発した。
その間、ずっと車内は無言で。
助手席の松本はずっとスマホでどこかに電話を掛けているが、相手が出ないようだった。
車が渋谷区に入った頃、スマホを見つめながら松本がボソリと言った。
「父さん、急いで貰ってもいい…?」
「…どうした…人を乗せているから、あまり乱暴な運転はできないんだが…」
「大野…ヤバいかもしれない…」