第6章 幻月
仁科は、なんだがぽーっとしてる。
リビングに通され、ソファに座らされて。
松本のお母さんが、パタパタとリビングを出入りして、お茶を勧めてくれる。
「いえ、あの本当にお構いなく…」
「いいんですいいんです。妻は饗すのが好きなんですよ」
お父さんは鷹揚に笑っている。
俺たちに菓子籠を差し出して、やっと松本のお母さんは床のカーペットの上に座った。
キラキラした目で仁科を見上げてる。
「ねえ、仁科くん。潤は中学校ではどんなふうだったの…?」
「え…あの…凄く…」
ぽけーっとしてた仁科が、口からヨダレが出たようでじゅるっと慌てて口を拭った。
「凄く…何でも知ってて、大人っぽくて…」
「ええっ!?潤が!?あなた、聞いた?」
「ああ…潤が大人っぽいって!?」
「え、ハイ…」
「そりゃあ驚いたなあ」
「あ、でもあの子、朝帰りする不良だから!そこが大人っぽいって感じだったのかしら!?」
「ああ、そうだな!きっとそうだ!」
お父さんとお母さんは、ふたりで凄く盛り上がってる。
それを、仁科は…
眩しいものを見るみたいな顔で、見てた。
相葉先生が、ぽんと仁科の肩に手をおいた。
俺も、肩に手を置いた。
「…なんだよ?」
キョロキョロと仁科は俺と相葉先生の顔を見てた。