第6章 幻月
「夜分にすいません…」
「いえ…」
玄関先に出てきてくれたのは、松本の養母だった。
「すいません。潤はまだ戻っていないんです」
「そうですか…」
「今、主人が電話で連絡を取っていますので、お待ちいただけますか?」
「お手数をおかけして、申し訳ありません」
何度も頭を下げると、松本のお母さんは仁科を見た。
「潤の、お友達?」
「はい。聖華の中等部の時、仲良くしてもらっていました」
「そう…潤からは学校のことは聞かせて貰ってなかったから、お友達に会えて嬉しいわ…」
儚げに微笑んでいる養母さんは…
多分結構お年なんだろうと思うが、少女みたいな雰囲気で。
ふくよかでおっとりとした方だった。
つい10分ほど前、松本の家に到着した。
タクシーでかっ飛ばしたら、すぐだった。
世田谷のこじんまりとした一戸建てで。
遅い時間だったが、インターホンを鳴らしてみたら応答があった。
怪しすぎる時間帯なので、事情を掻い摘んで説明して、どうしても息子さんと話をさせて欲しいと、熱弁した。
仁科も代わって話してくれて、松本の中等部時代の友達だと説明し、俺達が聖華の高等部の先生であることも説明してくれた。
どうにか、松本の親が信用してくれて、やっと玄関先に姿を現してくれたってわけだ。