第6章 幻月
また渋々椅子に座ると、仁科が飲み物を飲んだ。
ちゅーっとストローで一気に吸うと、立ち上がった。
「…そこは、松本が居ないと入れないの。すんごい家だから」
そう行って、トレーをゴミ箱の上に持って行った。
「んじゃ、行きましょうか。カズヤに任せよう。翔ちゃん」
「は、はい」
慌てて俺たちも後を追った。
店を出ると、俺たちに背中を向けて、仁科はスマホを取り出した。
「すんごい家ってどんななの?」
「松濤の一等地に建ってる家。セキュリティーが凄くて、入れないの」
「えっ…」
相葉先生が俺の顔を見た。
「翔ちゃん…もしかしてヤバいご職業の方かなあ…」
「はあ…」
それでも…多少、危険を冒してでも…
俺は大野を見つけ出さないといけないんだ。
仁科はスマホをいじったまま動かない。
「松濤って、近くじゃん…こっから歩いていけるし…」
「そうですね…」
仁科はくるりとこっちを向いた。
「だめだ。番号変わってた」
「えっ!?」
「もう…高等部にあがってから、ずっと連絡取ってなかったし…そうだよなあ…」
「じゃあ…家に行こう!」
「えっ!?」
卒業アルバムのコピーの他に、生徒名簿のコピーも入っていた。
松本の家の住所と保護者の名前が書いてある。