第6章 幻月
「智ぃ…」
なんで口塞がれてるんだろ。
「なあ…寝よ?」
寝る…だけだよな…?
頷いたら、和也さんの手が離れていって。
息ができなかったから、ほっと息を吐き出した。
その瞬間、また口を塞がれて。
今度は手じゃない。
唇だった。
酒くさい息が、口の中に入ってくる。
「んんっ…」
闇に目が慣れてきて、和也さんの白いTシャツが見えた。
必死でその肩を押して避けようとするけど、和也さんが俺の上に馬乗りになってるから、逃げられなかった。
嫌だ
酒の臭いが、暴れる母さんの叫び声を思い出させた。
嫌だ嫌だ
「や…やめてっ…」
嫌だ嫌だ嫌だ
顔を反らしても、首筋とか舐められて。
気持ち悪くて鳥肌が立った。
「やだっ…やあああっ…」
体を捻って逃げようとするけど、今度は背中に和也さんがのしかかってきて。
がっちり両腕でホールドされて、動けなくなった。
「大丈夫だって…痛くしねーからぁ…」
「やだっ…離してっ…和也さんっ…」
必死に抵抗した。
ここに居られなくなるかもしれないけど、とにかく嫌だった。
ぎゅっと目を閉じたら、松本や仁科の顔が過ぎった。
今更…絶対助けてくれないのに…
なんで
最後に、櫻井先生の顔が浮かんだ
先生…助けて
助けてくれよ
「暴れんなって…痛いことしたくないんだからさあ…」