第6章 幻月
手を伸ばして、スマホを持った。
「…鳴って…ますよ…?」
和也さんに呼びかけてみたけど、こちらに顔を向けただけでまたテレビ画面を見た。
「いいよ。放っとけ」
そのまま和也さんは何も喋らない。
この沈黙が、何を意味するのか…
友達からであろう電話を無視するのが何を意味するのか…
着信は松本からだった。
少しだけ、スマホを持った手が震えた。
そういえば、俺のスマホ…
充電できないままだ。
さっき抱きまくらしちゃったから、和也さんの寝室にスマホ置きっぱだ。
もしかして、松本に連絡を取らなきゃいけない事態になるかもしれない。
使えるようにしとかなきゃ…
そう思ったら、足まで震えてきた。
「あの…和也さん」
「あ?」
「スマホ、寝室に置いたままなんで、入っていいですか?」
「ああ…待って」
和也さんはソファから起き上がると、ゆっくりと歩いてきた。
部屋のドアを開けると、俺を振り返った。
「来いよ」
寝室の中は…暗くて。
真っ暗で。
笑いながら、和也さんは闇の中に消えていった。
…酒、飲んでないから…平気、だよな…?
その闇に足を踏み入れた途端、腕を掴まれて。
真っ暗な中、強い力でベッドの上に押し倒された。
「やっ…」
抗う暇もなく、体の上に和也さんが乗っかってきて。
そのまま口を手で塞がれた。
ふんわり、酒の匂いが漂ってきた。
和也さん…酒、飲んでる