第6章 幻月
side O
風呂に入って上がってきたら、部屋の中がいつもよりも暗かった。
スタンドライトが数個しかついてないんだ。
リビングの大画面のテレビだけが、煌々と明るく。
その光の当たる場所のソファに、和也さんは座ってる。
ソファに寝転がって、雑誌かなんか読んでる。
こんなに暗いのに…なんで…?
──嫌な予感がした。
松本の言葉が、ぐるぐる頭の中で回る。
”酒を飲むな”
どういう…ことかな…
さっき、アイツら呼ぶって言ってたのに、誰も来てない。
そっと冷蔵庫を開けて、飲み物を取り出した。
和也さんは俺が風呂から出たのを気づいてるのか、気づいてないのか。
こっちを見ようともしない。
ペットボトルの蓋を開けて、オレンジの匂いのするだけの甘い液体を流し込んだ。
冷たい液体が、喉を通って胃に流れ込むのがわかった。
バサッと音がして、驚いて振り返った。
和也さんが、雑誌を床に放り投げてテレビ画面を見てる。
なんで…こんなビビってる…?
俺なんか、どうなったって…
誰も泣かないし、誰も心配しない。
誰も俺のことなんか…
ふと、先生の笑った顔を思い出した。
なんでこんなときに…
アイランドキッチンに乗っかってる、和也さんのスマホが鳴った。
でも、和也さんはこちらを一瞥もしなかった。