第5章 朔
一回、仁科と大野は渋谷でばったりあった事があるということで、渋谷を中心にしてはどうかという話で。
「…ははあ…俺も一回、渋谷で大野を捕まえたことがあります…その時、友達と一緒だったなあ…」
「へえ。うちの学校の子?」
「いや、でも…中等部はうちだったらしいです。高等部はよそへ編入したみたいなことを言っていました」
「ふうん…中等部ねえ…なんて名前?」
「確か、松本って言ってました。下の名前は不明です」
「ふんふん…わかった」
事務机の上で開いていたノートパソコンになにやら打ち込んでいる。
…何をしているんだ…?
丸椅子に座っていたから、覗き込もうとした時、保健室のドアが開いた。
「おっはよーございまーす」
入ってきたのは仁科で。
ほっぺたに湿布を貼り付けてる。
手首も昨日よりも御大層な包帯が巻いてあった。
「カズヤ、顔どう?」
「んー…ちょっと腫れた。でもあんまり痛くないよ」
「そう…診断書もらってきた?」
「うん。弁護士ちゃんがやってくれたから。後はおまかせする」
「弁護士ちゃんって…」
「あ、櫻井先生おはようございまーす!仁科、保健室登校しまーす!」
「まじか…元気じゃねえか…」