第1章 狐月
職員室に戻って、出席簿を抱え、1限の授業の準備をする。
こんなことなら、準備しておけばよかったと後悔。
「ぬあああ…」
「ちょっと櫻井先生うるさい」
「あい、すんません!」
学校事務の澄岡さんが、席からちらりとこちらを振り返った。
「もうHR終わりますよ?」
「すいません、ちょっと手間取っちゃって…」
ザマスメガネを掛けて、引っ詰め黒髪。
事務員の制服に、腕には黒のアームカバー。
事務員のコスプレ?ってほど、絵に描いたような昭和の女性事務員さんスタイルをしている。
「…今日は、教頭休みです」
「……へ?」
「私は何も言っていません」
ギシッと事務椅子を軋ませながら、澄岡さんは事務机に向き直った。
「あ、ありがとうございますっ…」
教頭は、いわゆる普通の会社で言う専務的な存在で。
学校教育というよりかは、生徒が金に見えてるタイプの教員だ。
課せられたノルマを達成しない教員に対しての当たりは強い。
今こうやってHRが終わりそうなのにモタモタしている姿を見られたら、昼休み丸々説教コースだ。
とりあえず、休みということでホッとした。
少し心を鎮めて準備をして、慌てて職員室を駆け出した。
途中、HRを終えた同僚教師とすれ違うが、俺の額の絆創膏を見て笑われる始末。
今日はきっと、仏滅なんだ。