第5章 朔
「ちょっとさ…おまえは俺のって言ってるから、名前で呼ばね?」
「え?」
「俺のこと、潤って呼べよ?」
「え…うん…」
「おまえのこと、智って呼ぶからな?」
「あ…うん…」
「嫌なのかよっ…」
なんつって、松本がぎゅう~ってこめかみをグリグリしてくるから、俺もグリグリしてやった。
「いてーってばよ!」
「ぐおおお…おまえこそっ…いてーんだよっ!」
グリグリ合戦してたら、バンってドアが開いて、和也さんがリビングに入ってきた。
「あ…わりぃ…邪魔した?」
なんか、ちょっと動揺してる。
「…へ…?」
「あっ…ああ、そう!別に邪魔じゃないよな?智!」
「あっ…」
そうだった。勘違いさせとかなきゃいけないんだ。
「そ、そうだねっ潤」
我ながら、気持ち悪いくらいに棒読みだった。
松本が吹き出して…
しばらく床にうずくまって起き上がれないほど、へたくそだったらしい。
「ったくよー…じゃれんなら、他所でやれよな…」
和也さんが思いっきり不機嫌になって、冷蔵庫からペットボトルを出すと、寝室に入っていった。
「ぐふう…」
「どうしてくれんだよ…和也さん怒っちゃったじゃん…」
「ぐふう?」