第5章 朔
「なあ…智…」
うつらうつらしてきた頃、和也さんがぼそりと呟いた。
「はぇ…?」
寝ぼけてたから、はいって言えなかった。
でもそれが面白かったらしくて、和也さんはくすくす笑ってる。
「ああ…よかった…」
「あ?」
「かずなりさん、わらってるから…よかった…」
寝ぼけてたから、言わなくていいことまで言ってしまった。
「俺が笑ってたら…何が良いんだよ…」
「だって…」
笑ってたほうがかわいいし…それに、俺…
和也さんに見捨てられたら、行くところないもん…
「笑ってんじゃねえよ…」
にやにやしてたらしく、ほっぺたを思い切りつねられた。
「いひゃい…」
「ったくよー…なんなんだよ、お前…」
「へぁ?」
和也さんの指が離れていくと、またぎゅっと抱きつかれた。
「何てもん連れてくんだよ…潤のやつ…」
「へ?」
「ったくよー…なんで俺が我慢しなきゃいけねーんだよ…」
松本がどうしたっていうんだろ…
そういえば、今日は顔を出してない。
今日はもう来ないのかな…
「あ…スマホ…充電…」
「んなもん、後で良いだろ…」
またぎゅっと抱きしめられて、身動きが取れない。
「俺にしとけばいいのに…」
ぼそっと呟いたのが耳に入ったけど、なんのことだかよくわからなかった。