第4章 雨月
仁科の身上書は…空白が多くて。
それは教頭権限で、極秘ってことだった。
だからあまり深い事情というのは、担任には降りてきていなくて。
昨年度の担任の引継書も、遅刻欠席以外は、生活態度に多少の問題はあるものの成績が抜群に良かったから大問題にはなっていなかった。
そんな事情があったなんて…
まあ、想像はついていたが。
本人の口から聞くと、胸の奥に来るものがある。
「…苦しいか…?仁科」
「えっ…?」
「今、とても苦しいか?」
仁科は面食らった顔をして、しばらく俺の顔を見ていた。
それからくるっと相葉先生の顔を見た。
「…でしょ?だから、ストレートに言わないとだめなの。この人には。わかった?」
「はぁい…」
「な、なんだよ?」
「どんくさいとこもあるけど、クソ真面目なんだよ。この人」
「どっ…どんくさ…」
そんな言い方しなくっても…
「先生」
「あ?」
なんかムカついたから、ぞんざいな返事になってしまった。
「あー…あのさ、俺もう親に見捨てられたの小学生の時だし、もうなんつーか…大野ほど、新鮮に苦しんでないのね?」
新鮮に苦しむって…
言い方斬新だな、おい。
「だからさ、大野の力になりたいんだ。俺…」