第4章 雨月
あの母親の…絶叫が耳に蘇ってきた。
「大野…家庭環境が、凄まじくて…それで、学校に来れなかったようです」
「え…?どういうこと…?」
「両親は別居中でした。母親と大野はふたりで暮らしていたようなんですが、その母親はアルコール中毒のようで…」
「アル中…」
「俺が大野の家のマンションに着いた時、通いの家政婦さんがエントランスで困ってたんですよ…今日は在宅のはずなのに応答がないと。で、鍵を持ってたから、なにかあったのかもしれないと一緒に中に入ったんですがね…」
あの部屋のひどい有様…
そして、母親を閉じ込めたソファの前で佇む大野の姿…
胸がぎゅっとした。
「部屋が物凄い荒れていて…多分母親が暴れたんでしょうね…」
「そんな…それもう強制入院させないと」
「…前の日、父親と面談したんです…」
「え?大野くんのお父さんと?」
「はい…その時は、大野に謝ってちゃんと向き合うって…そういう話だったんですけど…」
あれも嘘だったんだ…
あんな誠実そうに謝ったのに…
きっとあの後…大野にまた押し付けたんだ…あの夜叉を…
人間じゃなくなった、生き物を
だから…だからこそ、大野の受けたショックを思うと。
また、胸がぎゅっとした。
「父親は、逃げたんですよ…別居も、全て大野に母親の面倒を押し付けて、自分だけ逃げ回っていたんですよ…」