第4章 雨月
仁科はシャツの袖をまくって、手首の包帯を見せた。
よく見ると、左の頬も少しだけ赤くなっているようだ。
中島先生が長いため息を付いて、俯いた。
それきり顔を上げなかった。
教頭はそんな中島先生を見て、黙り込んだ。
学校長は穏やかに笑っている。
「では、仁科くんは止めに入っただけなんだね?」
「はい…あの、ちっこい先輩に聞いてもらったらわかると思いますけど…でも…」
「でも?」
「あのちっこい先輩、ちゃんと言うかなあ…?俺、酷いこと言ったままだし…謝ってないし…」
「酷いことって、どんなことを言ったんだい?」
「ナイショ」
ペロッと舌を出した。
「先輩の沽券に関わるから言いません」
「なるほど…」
ぷっと学校長は吹き出した。
「こ、こら…仁科…」
慌ててたしなめたけど、学校長はにこにこ笑って俺を見た。
「どうやら、どちらが嘘をついているのかはっきりしましたね?」
「はい…」
教頭も力なく頷いて、そして中島先生はまだ俯いている。
相葉先生が後ろでやれやれって顔をしている。
「では、戻りましょう。仁科くんは指示があるまで保健室で休んでいるように」
「はーい」
「相葉先生、お願いしますよ」
「はい、わかりました」
仁科を保健室に残して、俺たちは職員室に戻った。