第4章 雨月
side S
「櫻井先生!やっとお戻りですかっ」
教頭の叱責するような声が聞こえた。
「なんてことなんですか…あなたのクラスの仁科ですよ…全く…」
3人の生徒の横に立っている教頭は、未練がましいバーコード頭のこめかみを押さえている。
ご自慢のテーラードのスーツにはシワが寄っていた。
ネクタイもひん曲がっている。
「大野といい仁科といい…2年E組は…」
ぶつぶつ言っている後ろには、学校長が居た。
「教頭先生。ちょっと生徒の前でまずいですね」
「も、申し訳ありませんっ…」
後ろから教頭の肩に手を掛けると、教頭はさっと学校長の後ろに下がった。
白髪の髪を綺麗になでつけている学校長は、他の先生方を制するように前に進んだ。
もう、じいさんと言ってもいい年齢なんだが、体格もいいし背も高いから、格好良く三つ揃えのスーツを着こなしている。
俺を見ると、穏やかに微笑んだ。
「櫻井先生、その生徒は…?」
「あ…」
後ろを振り返ると、五関がブルブル震えていた。
「大丈夫か?五関…」
「…はっ…はいっ…」
ぎゅっと、澄岡さんの渡したハンカチとさっきのティッシュを握りしめている。
「3年の五関です。その生徒たちとは、去年まで同じ特進のクラスにいました」
「ああ…君が、五関くんか…」
微笑むと、学校長は五関に手招きした。
五関は弾かれたように、学校長の前に飛び出した。
「にっ…仁科は悪くありませんっ…!」
「五関!黙れよっ…!」
赤坂が立ち上がった。
一斉に、小会議室にいる人の視線が、赤坂に集まった。