第4章 雨月
カズヤは、中等部の頃から自分がゲイだってカミングアウトしてた。
だから学校ですごく有名だった。
俺はいつも、カズヤを遠くから見るだけで、高等部に上がって、今のクラスで同じになるまで喋ったこともなかった。
松本も違う意味で有名だったけど、カズヤと仲いいとこなんて見たことなかった。
「この前見かけたら、仁科だいぶ変わってたけど…中等部の頃って、凄い荒れてたっていうか…ちょっとやばかったんだよね。仁科…」
「そう…だっけ…?」
「まあ、大野は仁科に全然興味なかったもんなあ…」
苦笑いすると、コーラを取って蓋を開けた。
ぐびっと飲むと、また蓋を閉めた。
「…仁科も、親とうまく行ってない。親がさ、自分の子がゲイだって、認められないんだって…」
「ああ…そう、だったんだ…」
カズヤと同じクラスになって二ヶ月くらいしか経ってないから、そんな話も聞いたことなかった。
…っていうか俺、どんだけボンヤリ生きてたんだろ…
松本も、カズヤも…俺のことちゃんと見ててくれたのに。
どうして俺は、気づかなかったんだろ。
「だから、仁科も何度かここに連れてきたことあるんだ」
「えっ…マジで?」
松本はニコニコと笑顔を俺に向けた。
「中等部卒業したら、仁科は一人暮らし始めたから来なくなっちゃったけどさ。中等部の頃は、ちょくちょく遊びに来てたよ」
「え…一人暮らし?」
そう言えば…パパさんとご飯食べた時、”親の家”は花園神社の近くって言ってた…
俺…本当に周りにいる人のこと、見えてなかったんだ…
松本のことも…カズヤのことも…
自分のことで精一杯で、見ようとしてなかったのか…?
先生…
先生も、そうだったのか…?
俺以外にも、カズヤとか…問題児抱えて…
初めての担任で、毎日精一杯で、一生懸命で…
だから、俺のこと…あんな目で見たって…
仕方なかったのかな…