第1章 狐月
Side O
教室に入ったら、一番うしろの隅が俺の席。
クラスの奴らは、うるさく喋ってる。
「なんか櫻井がさあ…」
「なになに?」
「桜の木の下で俳句詠んでた!」
「ダッサ…あいつ何歳だよっ…」
なんだか知らないが、流血教師のことで盛り上がってるようだ。
「お!大野おはよー!」
「はよ」
「今日もダルそうだなー…」
「おう。眠いわ…」
「ぶぶ…朝飯食えよー!」
「ああ…」
朝から元気だな…
隣の席で突っ伏してる奴が顔を上げた。
相変わらず、柴犬みたいな顔してる。
「…おはよ…大野…」
「おはよ…仁科…」
こいつだけは、朝から元気じゃないようだ。
柴犬みたいな顔を少し傾げると、俺に向かって手を伸ばしてきた。
「な、なんだよ…」
こいつはゲイだって。
そう、公言してる。
差別するのなんてかっこ悪いから、俺は普通にしてるけど。
でも、こういうことされるとどうしていいかわからない。
「んふ…違うってぇ…血、付いてる」
「え…」
ふにゃふにゃした口調で、ふんわりと笑いながら俺の頬を指差した。
思わず手で拭ったら、手に少し血がついてた。
「あんにゃろ…」
「朝っぱらから喧嘩でもしたの…?だめだよ…大野目立つんだから…」
「はあ?おまえに言われたかないね」
こいつ、ゲイだって公言している上に、去年まで金髪だったんだ。
だから目立つどころの騒ぎじゃなかった。