第1章 フー・アム・アイ
そう言う割には、少し楽しそうに見えて。ようやく作り物ではない顔が見れた気がして、ああ、平子君と上手くやってるんだなと安心する。そうしてたどり着いた丘の上で、五番隊での日常を聞いた。先程経理部に行っていたというのも、この子が五番隊の経理を管理できるように連れて行かれたらしい。この歳で、大人と同じように扱われ、大人と同じ業務をこなすことを求められている。護廷の在り方がこうであるとはいえ、この子にはまだきついだろうに。まだ子どもなんだから、そんなに頑張らなくて良いんだよ、と。口にすると、不思議そうな目で見られる。
「…浮竹隊長ならそういうん言いそうですけど、京楽隊長に言われるとは思わへんかって、少し驚きました」
「そりゃ、浮竹なら間違いなく言うだろうけど…僕にだってそれなりに子どもを慈しむ心はあるさ」
「そう、でしたか。すんません、ほんなら京楽隊長のこと、誤解しとりました」
―――隊長たちン中で貴方が一番、合理的でシビアな人やと思うてました。
言われたそれに、返す言葉もない。心底驚いたのだ。護廷に入りたての、こんな小さな子どもが、己の本質をよく見抜いていることに。気分を害されましたやろか。僕の顔色を窺う少女に、そんなことはないよと言って笑う。
「恐ろしい子だね、愛美ちゃんは。人をよく視ている」
そう言って頭をポンポンと撫でてやると、少女は笑みを消して膝に顔をうずめた。隙間から覗く、透き通った美しい水色の瞳はひどく無機質で、けれど、揺れていた。何かを迷っているようだった。急かすことなく、言葉を待つ。ややあって、少女は口を開いた。
「……例えば、すんごい悪者がおったとして、」
「………」
「そいつをやっつけるのに、綺麗事は通じひんとして。せやから、自分が悪者に墜ちてまで、そいつをやっつけようとするんは、悪いことやと…思いますか?」
口にするのを迷った挙句に吐き出されたその問いに、簡単に答えてはならないのだろうと直観する。悪を倒すために、悪に墜ちるのは悪いことか。浮竹ならきっと、一も二もなく悪いことだと言うのだろう。けれど、自分は。
「……うーん、難しい事を訊くねぇ。愛美ちゃんはどう思う?」
「私ですか。私は…それが考えうる限り最善の方法なんやったら、そうすべきやと思います」