第1章 フー・アム・アイ
そこで言葉を切った彼は、ちらりと横にいる少女を見る。少女は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、一人で帰れるから大丈夫です、と言った。なるほど。この子がまだ瀞霊廷内を把握できておらず隊舎の場所がわからないのか、はたまた過保護な彼がこの子を一人にさせたくないのか。いずれにせよ、いい機会だ。
「この子なら僕が送っていくよ」
「ですが…」
「その方が僕もリサちゃんに怒られる理由がなくなるし、ね?」
ふらふら散歩をしているだけでは、あの子が会議から戻ってきた時にこってり絞られてしまう。この子をサボりの理由にさせてくれと開けっ広げに伝えると、真面目な彼は呆れたように溜息を吐いた。
「サボる理由に市丸を使わないでください。…では、お言葉に甘えて。市丸も、いいね?」
「はい。京楽隊長、お世話んなります」
「なぁに、可愛い花を連れて歩けるんだから役得さ」
「…京楽隊長」
じとりとこちらを見る彼に笑いながら副隊長会議へと急かすと、彼は後ろ髪をひかれながらも瞬歩で消えていった。残された少女は、分厚い冊子をぎゅっと抱えてこちらを見ている。さあ行こうか、五番隊の隊舎でよかったかい?訊くと、こくりと頷かれる。そうして他愛もないことを話しながらのんびり歩いた。とても賢く、気の利く子だなぁ、というのがこの子と話している中で得た印象だった。悪い噂を耳にしないのも、なるほど、この要領の良さなら納得だ。けれど。まだ幼いその顔には不釣り合いな、不安定さを感じさせるその作り笑いが、どうにも気がかりでならない。
「ちょっと、寄り道しようか」
五番隊舎へ真っすぐ向かっていた足を、方向転換させる。戸惑ったようにその子は立ち止まった。たまには道草食ってもいいんだよ、何か言われたら僕が弁明してあげるからさ。そう言うと、それが隊長命令であるならばとついて来る。
「…隊長になるお人って、自由な人やないとなれん決まりでもあるんです?」
「いやァ、そんな決まりはないんだけどね。…君のところの隊長はどうだい?」
「あの人、いっつもサボってばっかですわ。せやから藍染副隊長があんな口うるさァなるんや」