第1章 フー・アム・アイ
掬いたかった
ふらり、ふらりと気ままに歩く。隊士達が自分の姿を見て口々にお疲れ様ですと頭を下げるのに挨拶を返しながら、全然仕事してないからお疲れ様も何もないけどねぇと苦笑して。そのままのんびり歩いていると、前方に面白い二人組を見つけた。二人は分厚い冊子を片手に何やら話している。やあ、と声をかけると、ぱっとこちらに向き直った青年は、すぐさま丁寧に挨拶を返してくれた。一拍遅れて、つられるように隣の少女も頭を下げる。可愛いなぁ。白銀の輝きを携えるその少女は、きっとあと数十年もすれば美しい女性になるだろう。自分の不躾な視線に目敏く気づいた隣の青年―――藍染副隊長は、非難するような目でこちらを牽制する。あらら、バレちゃったか。過保護なことで。
「歩きながら仕事なんて、精が出るねぇ」
「仕事というほどのことではありませんよ。この子が勉強熱心なもので」
ほら、挨拶しなさい。彼に促され、少女が前に出る。
「五番隊三席の市丸愛美・いいます。よろしゅうお願いします」
「ああ、君の噂はよく聞いてるよ。よろしく、愛美ちゃん」
リサちゃんと似たようで異なる方言は、品があって好ましい。霊術院をたった1年で卒業し、入隊と同時に三席に就いたこの少女は、神童と呼ばれ今瀞霊廷で最も注目を集めている。本来であれば、こんな小さな女の子が席官に就くことをよく思わない者が出てもおかしくない。それなのに、そのような噂を耳にすることはなく寧ろ良い噂ばかり聞くものだから、大層驚いたものだ。あの鬼道衆が是非ともうちにと欲しがるほど鬼道の才に恵まれているとも聞く。自分たち老兵が引退した後もこれは安泰だな、なんて浮竹は笑って話していたが、あながち間違いでもないかもしれない。
「ところで惣右介君、今日は副隊長会議があるんじゃなかったかい?」
そう。自分がこのようにのんびり散歩ができるのも、あの厳しい副官の彼女が副隊長会議で席を外しているからなのだ。もうすぐ始まる時刻になる。品行方正、真面目な彼が未だこんなところにいることに少し意外だな、と思う。
「ええ、思ったよりも経理部に時間をとられてしまいまして。今から急いで向かうつもりなのですが、」