第1章 フー・アム・アイ
にこりと微笑みながら、お猪口を再び口へと運ぶ。今度は阻止されなかった。一思いにくっと流し込むと、喉が焼けるような感覚を覚える。眩暈がした。どうして、本当に、今日に限って。夜に訪ねてくることなんて、今まで一度もなかったのに。どうして私が憎しみと情の狭間で揺れている時に限って、更に惑わせにやってくるのだろう。流石に一升瓶全てをこの短時間で飲み切るのは無理があったらしく、ふらりと酔いに揺れた身体を彼に抱きとめられる。ぎくりと固まったままの私を、彼はそのまま後ろから抱きしめた。その、ゆるりとした、けれど逃げることを許さない優しい拘束に、貼り付けていた笑みが歪む。(ああ、あかん。これ以上は、もう。)そう思うのに、身体は一向にいうことをきかない。
---彼の体温なんて知りたくなかった。それが案外温かいものであるだとか、彼自身の匂いが存外嫌いでないことだとか、こんなに優しい抱擁をすることができるのだとか、全部全部、知らないままでいたかったのに。
「…私んこと、からかいに来はったんです?」
俯かせた顔を、彼の手が掬い上げる。強制的に合わせられた目。口元は相変わらず微笑を携えているくせに、藍染隊長の目は、笑ってなどいなかった。その視線の強烈さに息を呑む。彼に付き従って数十年、はじめて見る「男」の顔をしていた。
「からかいに来たように見えるかい」
「…、」
「今日の宴会中ずっと心ここにあらずで、君が何か躊躇っているように見えたから、私への贈り物でも用意してくれたのだろうかと予想はしていたよ。本来はそれを受け取りに来たはずだったんだが」
藍染隊長の親指が、私の頬を撫ぜる。
「愛美」
熱っぽい吐息を含んで囁かれた自分の名前に、ぞくりとした。
「君が欲しい」