第1章 フー・アム・アイ
彼らの言葉に、市丸サンは微笑む。イヅルんこと頼みます。そう言った彼女に、吉良サンが退けるのを待たず傍に寄ったのは砕蜂サンだった。平子サンは、ただただ黙って見守っている。
「先に言っておく。…愛美、謝るなよ」
「砕蜂チャン、」
「貴様のことだ、大方百年前のことや私に打ち明けなかったことを謝るつもりだろう。謝罪などいらん。貴様がそうすることしかなったのは理解している」
「………うん、」
「礼も言わんぞ。貴様は任務を全うした。死ぬ必要もないのに自ら望んで死んでいく愚かな奴だ…ただそれだけだ」
「うん、」
「…これから礼を言うのは、友としてだ。百年前に夜一様が居なくなった日から、絶望に苛まれていた私を救ってくれたのは貴様だった。貴様がその件に関与していたことは分かった上で、…たしかに私は愛美に救われたのだ。……ありがとう」
ぐっと涙をこらえながら、砕蜂サンが言う。死なないでくれと縋られるよりも、お前のせいじゃないとこれまでのことを肯定されるよりも、任務を全うしただけの馬鹿な女だという言葉は、何よりも救われる言葉だっただろう。ありがとうと言って笑う彼女は、とても安らかだ。そうして、百年前の彼らへと視線だけを動かす。もう、身体に力が入らないのだろう。そんな彼女を慮ってか、彼らがその声を聞き取れるようにとその輪へ少し近づく。
「皆さんには、わたし、ほんまに謝っても謝り切れんこと、しました。皆さんの人生、壊してもうた。もっとはやくに、どうにかできたかもしれん、かったのに、百年前も、どうにかできたかも、しれんかったのに。…ごめんなさい。百年も時間かけてもうて、」
「あー、腹立つわホンマ!ぐだぐだぐだぐだ…お前さっきから謝ることしかできんのんか!全部自分のせいにしてアホなんちゃうか、烏滸がましいわ!」
イライラとした様子で怒るひよ里サンに、彼女らしいなと笑う。市丸サンは過去の出来事をずっと抱え続けて自分を責めていたようだが、僕も、彼らも、誰一人彼女を責めるつもりなんてこれっぽちもないのだ。その証拠に、市丸サンを見る彼らには、怒りひとつ見えない。怒りっぽいひよ里サンを呆れた様子で見守るだけで。