第1章 フー・アム・アイ
「緋真…!?」
居心地悪そうに座っているのは、以前流魂街での任務中に出会って以来、何かと気にかけてきた存在だった。正装し、化粧をしているその姿に、照れくさそうに私の名を呼ぶその可憐さに、思わず固まる。いや、待て。その前に。
「ふふ、大成功みたいやね。ほら白哉クン、いつまで見とれてはるの。入った入った」
私の背を押そうとした手を掴み、部屋の外へと引きずる。襖を閉め、にやにやと笑う愛美の顔面を掴んで思い切り指に力を込めた。
「いだだだだだ、ちょ、痛いって!」
「何故緋真が此処にいる」
「は、話すから、せやからちょお離してや」
不服だが、手を放してやる。この馬鹿力めと悪態をつき、そうして愛美は口を開いて言う。
「白哉クン、キミ、あの子んこと気になってしゃあないやろ。せやけどお家柄の関係であんま流魂街にも行けんやろし、どうにかできんやろか・てずっと考えてて、まあそれがこの結果や。…ちゃんと、話しておいで」
緋真と出会ったことやその日の任務のことは、たしかに此奴に話したことがある。けれど、たったそれだけだ。たった一度の、些細な日常の一部を、私の心を、此奴は見抜いていたのだ。癪だ。しかし、じんわりと胸が温かくなるような、これは。緋真に会えた喜びなのか、将又己を理解してくれている愛美の優しさへか。
「……愛美」
「ん。はよ行ってやり」
「…礼を言う」
ひらりと手を振って、去っていくその姿を見届け、襖に手をかける。
そうしてこの日から、私と緋真は急速に距離を縮めることとなった。
緋真はやけに彼奴に懐いており、私の知らぬところで二人で会っていたりもした。彼奴が私を連れ出すために、流魂街にも行きやすくなった。緋真が可憐に笑い、愛美が優しく微笑んでいる。こんな日常がずっと続けばよいと、らしくもなく思った。
巣食ってあげたかった
(緋真が亡くなって、兄は哀しんだ。私の哀しみに寄り添ってくれた。ルキアを義妹に迎え、兄はよかったねと笑ってくれた。その兄が、ルキアに刃を向けている。させるものか。ルキアを、兄を、これ以上苦しめてなるものか。刃が己に刺さる。私を刺した、その時の兄の泣きそうな顔が、どうしても忘れられないのだ)