第29章 君がいてくれたからだ
この地には不似合いなヒトの姿を見つけた。黒い死覇装に斬魄刀……あれは死神だ。何故死神がこんなところにいる?目障りだ、殺してやる。喰らってやる。そいつを目掛けて駆ける。そして飛び付いた俺を、その死神はいとも容易く防いだ。
「危なァ、びっくりしたやないの」
変な喋り方をする死神だと思った。何が可笑しいのか、気持ち悪いくらいずっと笑っている。無性に苛立って、もう一度攻撃をしかけた。それをも防がれる。
「やんちゃな犬やね。ひとり?」
(犬と一緒にすんな!)牙を剥き、その左腕に噛み付く。血の味がする。ざまあみろ死神、と唸った。そのまま喰いちぎってやろうとしたその時、右手で胴体を抱え込まれる。抵抗をするように左右に激しく頭を振ると、頭上からくぐもった苦痛の色を含む声が漏れる。しかし、そいつは俺を放さなかった。
「よしよし、ええ子やから、私ん話聞いてや。な?」
あくまで俺を犬扱いをするこの死神に、怒りを通り越して呆れる。こんなデカイ犬がいるはずないだろう。何を考えているかわからない。最も意味がわからないのは、死神のくせに虚である俺を攻撃しないことだ。
「今ね、仲間探してるんよ。強い仲間。ね、キミ、一緒に来ん?もちろんキミん仲間も一緒に」
黙ったまま観察する。
「ヴァストローデんなって、もっと強い人と戦わん?」
「……話だけは聞いてやる」
「お、やっと喋ってくれた。ほな改めて、キミん仲間も連れて一緒においで。私ん上司に紹介するわ」
そうしてついて行った先で、藍染という馬鹿みたいに強い奴と出会った。俺たちはそいつについて行くことにした。唯一ヴァストローデになることに成功した俺は、十二から六の数字を与えられ。あの女に拾われた日から随分と経ち、最初はあの女にまた会えないものかと思っていた俺だったが、次第に忘れて行った。その女との二回目の邂逅は、そいつが死神を裏切って虚圏に住むようになってからだった。他人行儀に挨拶をされる。その様子に、俺のことを覚えていないのだと思った。若しくは、獣の姿から成体となった俺に気付いていないのだと思った。別にそれならそれで構わないと、放っておいた。