第29章 君がいてくれたからだ
立ち上がる。身体はぐらついて、視界は少し霞む。それでも、立たなければならなかった。俺は王だ。俺が、王だ。こんな奴に、こんな所で、負けてなどいられないのだ。踏み出す。一歩が重い。それでも、もう一歩。本能のままに進む。走る。突き出した刀は、黒崎に刺さらないまま。もういいだろう、と言われる。良いわけがない。またこいつと戦える保証も、その時互いが生きている保証もないのだ。視界が霞む。俺はここで伏してはいられない。不安を押し殺して下手くそに笑うあいつを置いて、行ってくると言ったのだ。---戻らねなきゃ、いけねェんだ。
「俺は---」
瞬間、眩い光が俺を包んだ。何事かと目を見開く。そして、一拍遅れて、その光の膜がノイトラの巨大な刃を防いでいると知る。驚いている様子を鑑みるに、黒崎の仕業でもない、井上とかいう女の仕業でもない、況してやノイトラの仕業であるはずもなく。(---誰だ?)奇妙に思えど不思議と警戒心は湧かず、その膜に手を当てる。そうして気づく。
(……市丸………ッ!!)
脳裏に浮かぶ白銀に、思わず眉を寄せた。ノイトラは興味の矛先を黒崎へと移す。そして、二人の戦闘が始まった。俺を包んでいた光が消え、身体も糸が切れたかのように地に沈む。動けない。
「次こそ死ねよッ!」
光が消えたのを目ざとく確認していたノイトラが、俺に再び刀を振り落とす。それを防いだのもまた、あの光だった。
「ッンだよこれ!うざってぇな!」
大きく舌打ちしたノイトラが、この光の膜を壊そうと刀を大きく振りかぶる。振り降ろされたそれを黒崎が防いだ。そうしてノイトラの一方的な蹂躙により黒崎がやられているのを横目に、目を閉じた。あいつの霊圧を放つ忌々しいこの光を、もう直視したくなかった。
「…なに、やってんだよ……お前……」
霊圧の光が眩しくて目を閉じれば、脳裏には白銀がどうしてもちらついて。いつの間にこんな仕掛けを俺に仕込みやがった。記憶の中の市丸に、虚圏のどこかにいるであろう市丸に、悪態を吐いた。じわじわと傷が治っていくのが分かる。その温かい霊圧に胸が苦しくなって、掻きむしりたい衝動を抑えるために爪を立てた。