第17章 宙ぶらりんな感情は殺して
疑いたくはないけれど、あいつは誰がどう見たって怪しい。私情を挟んではいけないことくらい百も承知だ。でも、それでも、俺はあいつを信じていたい。いつからかすっかり変わってしまったけれど、それでも、本質は変わっていないのだと。
「……昔のお前に戻ってくれ、市丸」
日番谷クン
もう一度そう呼んでほしい。そうして、笑ってほしい。俺がまだ隊長に成り立てでガチガチだった頃、お前が最初に声を掛けてくれたのを今でも鮮明に覚えてる。馬鹿みたいにニコニコしながら、俺に優しくしてくれたことを覚えている。口では言わないが、俺がそれにどれほど救われたことか。市丸の優しさのお陰で、今の俺があるんだ。
「疑いたくはねえ、」
あいつが変わってしまう前ですら俺は少なからず市丸を警戒していた。警戒と言っても、そんな大層なモノではない。ただ、あいつの浮かべる微笑に絆されないようにと、あいつを多少なりとも警戒することで自分を戒めていただけだ。それが、今はどうだろう。本当の意味であいつを警戒しなくてはならなくなってしまった。あいつの行動が不自然で不可解なのは誰の目から見ても明らかで。
更木の言った通り、市丸ほどの実力者なら、死神風情の旅禍を斬って捨てることくらい訳はない。万が一出来なくとも、鬼道の天才と呼ばれるあいつのことだ、捕縛することなぞ簡単だろうに。それなのに何故、あいつはそうしなかった?それとも、あり得ないとは思うが、旅禍の実力の方が上だったとでもいうのか?
(くそっ、考えてもキリがねぇ!)
頭の中をチラつく---ヒラリヒラリと艶を纏い舞う白。オーシャンブルーの瞳をちらりと覗かせて、諦めの色を見せる微笑を浮かべ。色づきの良い薄い唇がゆっくりと開く。俺の記憶の中の、まだ心を閉ざす前の市丸。日番谷クンと呼びかけられ、その時、あいつが何を口にしたか、俺は覚えていない。
「隊長!!大変です!!」
十番隊五席が焦った様子で駆け寄ってくる。記憶の中の市丸が、その微笑を携えたまま、消えていく。
「藍染隊長が---何者かの手により、殺されました…」
どうしてか---その報告を聞いて真っ先に思い浮かんだのは、あいつだった。
宙ぶらりんな感情は殺して
(もう一度名前を読んでほしいだけなのに、)