第8章 愛に着地することは難しい
「いや、僕もちょっと無神経だったかな。ごめんよ」
パタパタと他隊士達が集まってくる足音が聞こえる。これ以上集られても面倒だ。
「あら、隊長格がお揃いで。私の所為やね、堪忍な。イヅル、私非番もろたから今日は隊舎おらんねやけど、何かあったら地獄蝶飛ばしィ。…ほな」
乱菊が私の名前を呼んでいた気もするが、聞こえないフリをした。瞬歩を使って逃げる。追いかけて来る人はいないだろう。きっと京楽隊長が阻止してくれるはずだ。隊首羽織を脱ぎ、ひっそりとした街で花を買い、あの場所へ向かう。森を抜けてたどり着いた場所は、100年前に私が隊長を裏切った時のままの姿。記憶を頼りに、平子隊長がいたであろう場所に立つ。彼はどんな気持ちで此処に立っていたのだろう。裏切った私に対してどう思ったのだろう。花をそっと置く。目を瞑る。
「……………、」
平子隊長はちゃんと現世で生きている。そう藍染隊長が教えてくれた時、私がどれほど安心したことか。裏切り者の私が言うのもおかしな話だけれど、生きていてよかったと、生きていてくれてありがとうと、私は隠すこともなく泣いた。生きてさえいてくれればそれでいい。あれからの彼の苦労を知らないからこそ言える言葉。平子隊長を始めとする犠牲となった人達は、藍染隊長を、私を、死神全てを、憎んでいるだろう。いつか復讐を果たそうと業火の炎を滾らせていることだろう。それでもいい。それだけがいい。いつか再会する日がきたとして、平子隊長が憎しみのこもった目で私に斬りかかることを私は望んでる。勿論私には貴方を殺めるなんて到底出来得ないけれど、それでも。もう一度だけでいいから―――会いたいと思うことは、赦されない思いなのだろうか。
「愛美」
聞こえるはずのない声。どうして、ここに。
「白哉クン…なんで、」
私の問い掛けには答えずに、白哉クンは私の隣に立って静かに景色を眺めている。
「………兄があのように霊圧を上げるとは珍しい」
白哉クンらしい。日番谷クンのように直ぐに来るわけではなく、こうして此処で私の所に来てくれるのは。
「………遠いなァ」