第8章 愛に着地することは難しい
嗚呼、これだから京楽隊長は苦手なんだ。飄々として軽薄そうに見えて、そのくせ洞察力は抜きん出て鋭い。今だってそう、いとも簡単に当てられてしまって。
「その様子じゃあ図星だね。山じいが非番をくれたんだろう? 僕は行けないからさ、僕の分まで宜しく頼んでもいいかな」
どんな気持ちで、その言葉を言っているのだろう。
「……ええですよ」
「それからね、愛美ちゃん」
伊勢副隊長が私達の会話についていけなくて困っているというのに、まだ続けるつもりでいるのだろうか。私としてもいい加減解放してほしい。この人とはあまり話したくない。
「“彼”を追い続けるのはもう止めたらどうだい。君は過去ばかりに思いを馳せて、今を見ようとしていない。過去に囚われすぎだ。……彼を真似るのも、今日で終わりにするんだ」
あくまでも穏やかな口調の中に鋭さを秘めた声。---知ったような口を利くな。無意識にふつふつと湧き起こる私の殺気が霊圧になってのしかかる。近くにいた平隊員は瞬時に気絶し、伊勢副隊長が地面に膝をついて苦しそうに呼吸をしていた。京楽隊長に支えられている伊勢副隊長を見ているとスッと頭のどこかが冷静になって、霊圧を抑える。……今の私の霊圧の所為か、何人かの隊長格が此方に向かっている気配を感じる。早めに立ち去らないと面倒だ。
「京楽サンが言わはってる通り、過去に囚われてるんは認める。あの人は永遠に私の憧れや、―――忘れたァない。忘れられへんよ、100年経った今でも、こん先何百年経とうが、私はあの人を……平子隊長ん背中を追って、縋るしかできへんの」
「……………」
日番谷隊長、乱菊、東仙隊長、檜佐木クン、イヅルが瞬歩でやって来た。私が対峙するのが京楽隊長であることに困惑した雰囲気を感じる。ここで口を閉じるのが懸命な判断だ。でも、どうしても、止まらない。
「何も無かったことにしたァないねん。他ん誰もが忘れても、あの人が此処で立派に隊長務めてたこと、確かに此処におったこと、私だけは覚えとかなあかんねや」
貴方だって、大切なものを失ったはずなのに。どうして前を向いて歩いて行けるのだろう。忘れてしまったのだろうか?過去の事だと、割り切ってしまったのだろうか?
「………すんません、えらい感情的になってまいました」