第8章 愛に着地することは難しい
「…市丸や、おぬしには常々すまぬと思っておる。まだ幼かったおぬしに過酷な任務を押し付け、おぬしから大切な者を奪ってしまったのは他ならぬ儂じゃ。…この百余年、弔う機会も与えてこなんだ」
総隊長の所為ではありませんと伝えても、総隊長は自分の所為だと言い張る。埒が明かないため、それならば有り難く非番を頂戴すると言い、部屋を出ようと背を向ける。
「……儂が憎かろう」
足を止める。静かに、独り言のように、呟かれたその一言。そこには言い知れぬ重みがあった。
「…憎んだことない言うたら嘘になります、総隊長サンは浦原喜助の無罪を…平子隊長らの無罪を知ってはるのに黙ってたんやもん。せやけど、死神のトップとしての判断やったんも承知しとります。悪いんは藍染隊長で、私や。---失うんは、藍染隊長の下についた時から覚悟しとります」
総隊長ににこりと微笑んで、今度こそ部屋を出た。今日は非番なのだからせめて隊長羽織を脱ごうかと思ったけれど、面倒なのでそのままにする。イヅルには……、きっと総隊長が伝えてくれるだろうけれど、心配性な彼のことだ、私を探し回るかもしれない。一度隊舎に戻って顔を出しておくべきだろう。それから、どうしようか。…花を買おう。平子隊長だけじゃなく、あの日の犠牲者全員分。薄情なもので、100年前のあの日以来あの場所に足を運んだことはなかった。緊張からか、嫌な汗をかく。
「あれ、愛美ちゃんじゃないの」
思考が中断される。この声は、私が苦手とする人だ。嫌なタイミングだなと心の中で溜め息をひとつ。そして口元に弧を描く。
「おはようさん、京楽隊長、伊勢副隊長」
振り返ると、そこには京楽隊長と副官の伊勢さんがいた。
「驚きました……市丸隊長でしたか、一瞬浮竹隊長かと思いましたよ」
「んー、それ偶に言われるんよ。髪結わんとそんな似てはる?」
浮竹と愛美ちゃんはね、今にも消えちゃいそうな雰囲気が似てるんだよ。そう続けた京楽隊長に縁起でもないと苦笑いを零し、すみませんと謝る伊勢副隊長を宥める。
「…ほな、私は用がありますんで、これで」
「―――君が今から行く所ってのは、もしかして百余年前のあの場所かい?」
「―――…!」
「あの場所…?」