第5章 心よ、氷ごと砕けるがいい
………ううん、違う。よくよく考えれば、毎年その時期はこんな感じになるんだ、確か。100年前のあの日に近付くと、どこか体調が悪くなる。平子隊長達の呪いかなあと思ってるんだけれども。今年は忙しくてすっかり忘れてしまっていたけれど、そうだ、もう少しであの日だ。
「市丸隊長の“大丈夫”は、」
「お前の“大丈夫”はな、」
「“助けて”と……悲鳴をあげているような気がします。以前、兄様から聞いたことがあります…市丸隊長は御自分を責め続け、御自分を決して赦さない方だと」
「お前の“大丈夫”は“助けて”のサインやろ。俺にはそうにしか聞こえへんぞ。…大丈夫やないなら無理して大丈夫て言わんでええ。せめて俺の前では無理すなボケ!」
ルキアちゃんに言われた言葉が、胸に突き刺さる。…どうして、平子隊長と同じようなことを言うの…?私は大丈夫なのに。体調が悪いくらいで、風邪を引いたくらいで、たったそれだけの小さなことで私は休んでいられない。隊長はあの日、もっともっと苦しんだ。私の所為で、いっぱいいっぱい苦しんだ。それに比べれば私の苦しみなんてどうってことない些細なこと。私はもっと苦しまなければならない。もっと、もっと、もっともっともっと。こんなちっぽけな苦しみなんかじゃ足りない、どんなに苦しんでも私には苦しみ足りない。
「………私みたいなんにはこれくらいがちょうどええんよ。私は大丈夫、せやから……お願い、もう何も言わんでくれへん?」
どうか、お願いだから、私に優しくしないでほしい。私は罪人。私は向けられる優しさを裏切ることしか出来ない。その手を血に染めることしかできないから。だからもう近づかないで、踏み込んでこないで。
「……心配してくれたのにすんまへん、堪忍な」
「っ、…いえ、こちらこそ……先程の生意気な発言をお許し下さい」
気にしてないよといつものように微笑して、それじゃあと言いこの場を去ろうと足を踏み出した。気にしてないなんて真っ赤な嘘で。どうしてこのタイミングで平子隊長と同じようなことを言うのだろう。動揺を必死に隠そうと試みていると、首裏に重い衝撃が走る。(ああ、いつもなら背後をとられることないのに、)強制的に意識を沈めさせられる前に、ゆっくり閉じていく瞼を必死で閉じまいと抵抗をしながら、私に手刀をした人が誰なのかを知っておくため目を上に向けた。
