第5章 心よ、氷ごと砕けるがいい
「市丸、俺は断じてロリコンちゃうで。いいか、絶対違うんや」
「…? はあ、」
「でもな市丸、お前見よったらなーんか放っとけんのや。お前目ェ離したら最後、消えそうやし。……あんま俺の目が届く範囲から離れたらアカンで」
久しぶりに懐かしい記憶を夢で見た所為か、今日は何時にも増してボーッとしてしまう。現にほら、書類渡しに来たイヅルが困惑してるし。
「あの、市丸隊長…? 体調が悪いのでしたら四番隊へ行かれては……」
「心配かけてもうたかな、堪忍、イヅル。何ともあらしまへん。……私は大丈夫や、」
書類を受け取り、今は一人にしておいて欲しいと暗に伝える。気遣いの上手なイヅルは、心配そうな顔をしながらも退室していった。副官にこんな情けない姿を見せちゃだめじゃないか私。しかも気遣ってもらったし。後で饅頭でも持っていってフォローしておかないと。
「………駄目やなぁー…」
今は書類を片付けるような気分にならない。一人でいたいような、それでいて誰かと居たいような。取りあえずジッとしていることができず、隊首室を出て廊下を気ままに歩く。
「かーっ!またお前は!一人で出歩くなて言うとるやろ!」
「…隊長、いくら何でも私のこと子供扱いしすぎちゃいます?」
少し出歩いただけで、どうして私はこんなに怒られているんだろう。確かに今は夜中だから外は危ないかもしれない。だけど、私はこれでも三席だし、本当に少しの間しか出ていないのに。平子隊長は私のことを子供扱いしすぎなんじゃないかな、…納得いかない。
「お前は……、せや、…お前は迷子になりそうで怖いねん。しっかりしとるよォで抜けとるんやからな」
(私の唯一の憧れで、大好きな……)
乱菊以外にいなかった。いつだって私を心配してくれて、人のぬくもりを教えてくれたのは隊長だった。隊長は私にたくさん与えてくれたのに、私は100年前に隊長を裏切って、今もこうしてのうのうと生きている。自分の目的のためとはいえ、平子隊長でさえ知らない極秘任務であったとはいえ、誰よりも優しくしてくれた平子隊長を裏切った。貶めた。
---あの日の。最後に平子隊長が私を見た時の、絶望を映した目が忘れられない。
「市丸隊長?」