第38章 もしも三番隊隊長に復帰したら
「もう分かってはると思うけど。あん時な、私が乱菊以外で初めて心開いた人んこと、自分の手で裏切るん、怖かったんや」
「…………」
「平子隊長のこと、失いたなかった」
「…アホ。言うの遅いわ」
くしゃりと表情を崩して、平子隊長が身を乗り出し私を包み込む。体温も匂いも優しさも、何もかもが懐かしくて、鼻がツンとした。
「愛美」
……名前で呼ばれたのは久しぶりだった。昔はよく呼んでくれていたけれど、裏切り者として対峙した時は、ずっと名前で呼ばれることはなかったから。
「お前が生きとって良かった」
「隊長…」
「ずっと一人でよう頑張ったな、お疲れさん。…おかえり」
全てがあまりにも優しすぎて、絶句する。言葉にできない代わりに、その隊首羽織を強く強く握りしめた。
「…平子隊長も、おかえりなさい。生きとってくれてほんまに良かった。…本当に、ごめんなさい」
何も相談しなくてごめんなさい。裏切ってごめんなさい。百年間ずっと辛い思いをさせてごめんなさい。敵として会った時、素っ気なくしてごめんなさい。何も言わず勝手に死のうとしてごめんなさい。全ての"ごめんなさい"を込める。
「聞き飽きたわボケ」
「…ふふ、」
「---今度はお前が何か抱え込んだらすぐ気付いたる。つらいこと、一緒に背負ったるから…、せやから、ちゃんと俺を頼りィ」
そう言って、聞き分けの悪い子どもを見るような目で私を見て微笑む隊長に、しっかりと首を縦に振ったのだった。
平子隊長とお話しました
(そう言えば、この真紅の花は名をダリアと言って、平子隊長が持って来てくれたんだそうだ。私の誕生花らしい。顔に似合わず意外とロマンチストよねぇと、その後訪ねてきてくれた乱菊が笑っていた)