第37章 外伝
「あいつが怒るて…滅多な事やあらへんぞ。何言うたんや」
「君の事だよ、平子くん」
「…俺?」
俺の悪口でも言ってあいつを怒らせたのだろうか。いや、俺の悪口くらいであいつが怒るとは思えない。自分でツッコミながら、少しダメージを負う。
「君を追いかけるのを止めろと言ったんだ。過去に囚われて先へ進めていないと、君を真似するのを止めろ、とね」
そしたらまあ、すんごい殺気と霊圧醸し出して怒っちゃってさ。笑って京楽サンが言う。嘘を吐かれているとは思わないが、到底信じられない内容に、思わずこの人を凝視する。(あの市丸が、そないなことで?)
「君の事、相当慕ってたんだねぇ」
そうして、京楽サンは、市丸が怒りながら返した言葉を一字一句違わずに教えてくれた。俺を、永遠の憧れだと、忘れたくないと。俺が此処にいたこと、隊長として存在していたことを、自分だけは覚えていなければならないのだと、あいつは言ったらしい。(アホやろあいつ、)恥ずかしいやら嬉しいやら、込み上げてくるものはあるけれど。ただ、だからこそ、そんな市丸の苦悩に気付けなかった自分が腹立たしい。
「そういうんは本人に言わなあかんやろ、隠すなやボケが…」
「あの子は分かりにくいようで分かりやすい子だったじゃないか。君の真似して髪の毛まで伸ばして、いやはや、本当に健気だった」
「は、?」
「あらら、まさか気付いてなかったのかい?そうじゃなきゃ、自分の容姿に無頓着なあの子があそこまで大切に髪を伸ばしたりしないだろうさ」
市丸の成長した姿を思い出す。随分と伸びた背丈や、女性らしさの増した美しい容姿。---白銀の長い髪。百年も経てばこんなものだろうと思っていた。気にしなかったけれど、もしもこの人が言う通り、俺の真似をして髪を伸ばしていたのだとしたら。百年間、ずっと、俺を忘れずにいてくれたのだろう。ずっと、俺の背を追いかけてくれていたのだろう。
「…わかるかい、そんなん。あいつ、やけに俺の前ではツンツンしとったからな」