第32章 どうしてもこうなる理由
黒崎と市丸が対峙する様子を視界の端に捉え、視線を目の前の相手へと戻す。名前も正体も知らない、黒崎と同じく虚の仮面をつけることができる金髪の男。以前あいつが俺を迎えに来た時、ただの元上司だと貼り付けた笑みで言っていたのを思い出す。
「…テメェ、市丸の何だ?」
「何だてなんやねん、なんでもええやろ…ま、ただの元上司や」
「ただの元上司、ねェ」
以前も今も、そういう風には見えなかったが。現世へ着いて真っ先に視界に入ったあいつの顔は、一言で表すなら不細工、に尽きる。苦しそうに眉を寄せ、それでも浮かべられる歪な微笑。時折見せるあの顔が気に入らなくて、あいつの頭を思い切り殴った。俺は悪くない。
「…お前こそ何やねん」
ぼそりと呟かれたその言葉に、何と答えたものか分からず押し黙る。部下と言うには納得がいかないし、犬なんて以ての外だ。
「あのバカに借りがあるだけだ」
恐らくこれが一番しっくりくる答えだ。あの女に借りがある。頼んだわけでもない、寧ろあいつが勝手に俺を助けただけだが、命を救ってもらったことには変わりない。ムカつくから殴りたかったのもあるが、その借りを返すためだけに来たのだ。この男と対峙することであいつが苦しむのなら、俺が代わりに戦ってやれば良い。これで借りは返せただろう。
「お前に構ってる暇ないねん、俺は市丸に用があるさかい---退けや」
「ハッ、退かしてみろよ」
手を伸ばす。苛立つその男に、虚閃を放った。(あいつにあんな顔をさせるテメェが、こちとら気に喰わねェんだよ)苛立っているのは、俺だって同じだ。
「久しぶりやね、キミと戦うんも」
平子隊長とグリムジョーが激しく斬り合うのを横目に、目の前に降り立った彼へと笑いかける。尸魂界での事を憶えているかと問うと、憶えていないと返された。
「嘘ばっかり。挑発のつもりなん?」
「そうじゃねえよ。あんたの剣を憶えてねえんじゃねえ、あんたの心を憶えてねえんだ」
「心?」