第53章 生還
「死んでも良いと思っていた。が…何故かまだ生きている。
生きるにしろ、死ぬにしろ独りはつまらん」
「…謙信様が今の謙信様である訳がわかった気がします。
でも、謙信様は独りでしょうか」
瑠璃も謙信も明確な事は何も言わなかった。
その言葉の中に、奥に、隠れた何かを感じだけ。
「謙信様、お注(つ)ぎいたします」
瑠璃がお銚子の手を取れば、漆塗の盃が差し出される。
「お前の指先は美しいな」
「まぁ、麗しの謙信様に褒めていただけるなんて」
細い月と行灯に照らされた淡白い瑠璃の頬が緩む。
「次は琵琶をと約束しましたね」
「しておらん」
「私が琴で謙信様が琵琶でどうですか?」
「お前だけ弾け」
政宗とも光秀とも違う清涼な2人だけの時を過ごした。
絡めた指先を遊ばせながら瑠璃は政宗に話した。