第53章 生還
不機嫌なまま4刻は進んだだろう。
日は真上。
「休んで行くか」
政宗が馬を水辺に繋ぐのを瑠璃は傍で見て、繋ぎ終わった政宗に濡らした手拭いを差し出した。
「ああ」
受け取り手を拭いたのを見届けると、
瑠璃は政宗の手を取った。
「瑠璃?」
木陰に座ると、瑠璃が政宗を直眼した。
「政宗の不機嫌、治してあげます」
繋いだままの手。
瑠璃は隣りから政宗の膝の中に移動し、
指を絡めて繋ぎ直す。
「最後に謙信様は私に『お前の命は預かっているぞ』と言ったんですよ」
それは政宗も周知している事実。
(ただそれだけを?)
「それだけですよ」
瑠璃が優々と笑う。
(声に出てたか?)
「独りで死ぬな、と言う事です」
「何の話しだ?」
それは
春日山城でのある夜の話だった。