第53章 生還
「謙信様、お世話になりました」
「本当にな」
フイッと顔を逸らしながら、謙信は一言そう発した。
「口もきけないお前はつまらぬ」
そう言う謙信を政宗が流睇と見ている。
「ただ、雑巾みたいなお前を牽制している信玄を見るのは面白かったぞ」
(信玄が瑠璃を牽制?なんだそりゃ)
政宗が訝しむ。
「あれは、信玄様の勝手な妄想です。
信用して下さいって言う方が信用がないと思いませんか?
動けない程の怪我人に対してひどい」
酷い、という割に瑠璃は楽しげだ。
「さぁな、だが、お前は疑われてなんぼだろうな」
その言葉に佐助が眼を丸くしていた。
(謙信様が女性相手に冗談を言ってる……)
「謙信様、瑠璃さんは女性ですが」
思わず佐助が口を挟む。
「?佐助、お前には男に見えるのか」
真顔の謙信が答える。
「女性に見えますね」
「では何故問うた」
続いて呆れる謙信。
「謙信様が楽しそうに話しているからです」
「馬鹿を言うな。楽しそうでもなければ、女でもない」
言っている事がバラバラだ。
そんな佐助と謙信のやり取りを聴いていた瑠璃が、ウフフフフ…と笑い出す。