第53章 生還
「なんですかそれぇ〜…ぅ…」
「ほら、顔見せろ」
政宗は自分の胸に埋められている瑠璃の顔を両手で挟んで上げさせた。
「俺は、お前の事を心配した。
死んでるんじゃないかと思った…」
「…ぅ…ぐずっ……勝手に殺さないでよぉ…
…政宗の、ばかぁ…ぅぇっ…」
ポロポロと溢れる瑠璃の涙。
「生きてる……生きてるよぉ……ぅ、ぅ…」
政宗が生きている事を言っているのか、
自分が生きている事を言っているのかはわからない。
「あぁ、生きてるな……」
口付ける。
溢れる涙でしょっぱい唇。
けれど、体温があって温かい。
瑠璃は泣き止んだが、政宗は瑠璃を抱きしめたままでいた。
瑠璃が生きて自分の腕のなかに居ることを実感していた。
「…政宗…」
「ん?」
安堵に機嫌は良かった。
「初めて買ってもらった鼈甲の簪…」
「失くしたか?」
川に落ちた時、失くしてもおかしくない。
「ううん…馬と引き換えてしまったの…」
「馬?」
瑠璃はここに来るまでの事を話した。
「ごめんなさい…」
「俺は別に構わない。
申し訳なく思う必要もない。
でも、大切にしてくれてたのは知ってる。
ありがとうな」
「うん…初めて自分で選んで、誰かに買ってもらった、大切なものだったの…」