第53章 生還
「援軍、帰還にございます」
櫓係が伝えにきた。
長旅をしてきた兵を労う準備が急がれた。
間もなくして、城内に戻った兵を謙信が労いの言葉で迎え、酒を振る舞い、兵達は食べ物で腹を満たし始めた。
屋敷内へ通された政宗は謙信に頭を下げていた。
「助かった。
礼を言う。この通りだ」
「礼を言うなら、早くアイツを連れて帰れ」
「謙信…」
「ただし、アイツの命は俺も握っているぞ」
「…は…何言ってんだ…」
顔を上げた政宗が刺すような眼差しを向ける。
「瑠璃は自分を人質に、お前に援軍を送ってくれと俺に言った。
だから、アイツの命は俺も預かっていると言うことだ」
「…人質に…」
「瑠璃がここへ来るまでの経緯は聞いたか?
物乞いが門に2刻半も座ってている。と門番が困り顔でやってきた。
姫の容姿も残っていない程酷かったのだ。
しかし、強い運と意思を持った女だ。
酷いのは肋骨だけだったぞ」
謙信は痛みを堪えて手当をされる瑠璃を思い出して笑みが溢れた。
(軍神が笑ってやがる…しかも…)
冷めた冴え冴えとした狂気の微笑みではなく、
何か、子か小さな物でも愛でるかのような、
どこか柔和な笑だった。
「怪我を負い発熱して苦しい己が助かりたくて此処にきたのではない。
第一声、お前に援軍を送ってくれ、と言った。
自分が人質になる、命を差し出しても良いと言ってな。
瑠璃に礼を言うんだな」
謙信は瑠璃が声を上げ、悔しいと言って泣いた事は黙っていた。
あの涙は確かに自分を揺さぶった。
何か大切なモノに思えたから、自分の胸にしまって置くことにしたのだった。
「待っていろ、瑠璃を呼んできてやる」
そう言って謙信は出て行った。