第52章 探り合いの戦
「まぁ、どんな女性をも口説く信玄様の言葉とは思えない酷い言い様ですね。
私が、この容姿を犠牲にしてまで、
何か企んで此処へ来たとでも?」
挑目と信玄を見つめ、唇を引き結ぶ。
「此処にいる間、『私の顔を見なければ落ち着かない』と言って毎日見舞いつつ、警戒し見張っていたのでしょう?何か怪しい言動がありましたか?
あったなら、指摘なさって」
挑発しながら微笑んでいる瑠璃に信玄は眼を丸くした。
(気づいているとは思わなかったな…)
「やはり君は侮れない」
そう信玄が脅してみても
「…なければ、お放し下さい」
瑠璃は静かに冷たい声音を発しただけだった。
「何をもめておるのだ」
謙信が声と共に廊下の角から姿を見せた。
(謙信の気配に気づいてか?)
「その女に手を出すな」
「謙信?」
まさか謙信が止めると思っていなかった信玄は驚いた。
「もうすぐ、援軍が帰還する。政宗も一緒だそうだ。
この女の事となると面倒くさいヤツだ。
瑠璃、来い。
軀が冷える前に部屋へ入るぞ」
信玄よりも冷たく鋭い眼差しを、寄越して手を差し出す謙信。
瑠璃は扇を振るかの様に流暢に謙信の白いその手を取った。