第52章 探り合いの戦
雨上がりの夕刻、冷たい風が吹いて瑠璃は腕で胴を抱いて身を震わせた。
季節の変わり目だ。
(もうこんなに寒くなってきた)
その刹那、
「軀が冷えるだろ、部屋へ入ったらどうたい?」
いつの間にそこにいたのか、信玄が柱にもたれて、こちらを見ていた。
「信玄様。北の冬は早足でやって来ますのね」
振り返った瑠璃が優雅に微笑んだ。
「そうだね。
冬が来る前には迎えが来るさ」
「そうだと信じていますわ」
瑠璃は努めて柔らかな声音に、微笑を浮かべる。
信玄の前では崩さない、強い姿勢。
そして、美しい女の姿。
「中へ入りましょうか」
「……」
信玄とすれ違おうとした瑠璃を鋭い眼が捉えた。
一息、
「!」
腕を掴まれ信玄の腕の中に抱きしめられていた瑠璃。
「……」
「小さな悲鳴も上げないのか」
「何が仰りたいのですか。
悲鳴を上げれば何か楽しい事でもあると?」
突然捉えられたにも拘らず、女らしい悲鳴もなければ、動揺も見られない。それどころか、厳色としてみせた。
そんな瑠璃を信玄は邪見する。
「君は信用ならない。姦詐邪穢(かんさじゃわい)だ」
以前からそう思っていた。
そんな言葉に目を吊り上げるでもなく、
微笑みさえ浮かべ、信玄を見る。