第52章 探り合いの戦
言葉を間違えれば自分の首か重臣の首が飛ぶほどの殺気を放って静かに構える政宗に、義光は唾を飲み込んだ。
「どうなんだよ」
「……分かった…兵は引く…
伊達家には干渉しない…」
その言葉に義姫が項垂れた。
最上が伊達家に干渉する機会が残っていたなら、
家督相続に口を出そうとしていた義光と義姫の目論みも潰える事となった。
「賢明な判断だ、と言いたい処だが、俺としては、「交戦だ」と言ってくれたらありがたかったぜ。此処で戦って貴方を滅ぼしておきたかった。残念ですよ、叔父上」
全く楽しそうにそう言って書状を受け取った政宗は立ち上がり、広間を退(あと)にと背を向けた。
その背中に
「政宗っ」
義姫の声が迫った。
ダッ
床を踏み込む音がした。
「⁉︎」
声と音に振り返った政宗が、母の手を叩き、
続けて腹に拳を突き出した。
ガシャンと懐剣が転がり、義姫の軀が傾いだ。
「おーっと、焦りは禁物だ」
傾ぐ母を支えることなく見送る政宗。
ドッ…
義姫が床に倒れるのを無感情に視界に入れる。
「……母上は息子より兄の方が大切なのだな」
ククククと嗤う。
「次に何か企んでるなら、誰であろうと容赦しない」
そう言い残して政宗は叔父最上義光の城を出た。