第52章 探り合いの戦
拉致された時の背中の白くなった古傷の事を言っているのだと、瑠璃も気付いた。
瑠璃が肩を小刻みに震わせているのが謙信に伝わっていた。
(泣いたのか?怒ったのか?)
「ふふふ…謙信様は擬態生物をご存知?
外見を偽り獲物を捕食する虫や草」
笑っていたのだった。
顔を振り向けて、清麗な微笑を見せる。
「か弱そうな者ほど、
脆弱で保護心を掻き立てさせ、
警戒心を解かせ、殺す機会を虎視眈々と狙っているかも知れませんよ。
…ふふふ…」
瑠璃の言葉を聞いた謙信は色違いの眼を見開いた。
「……口は本調子のようだ。
おまえがこの城から出てゆく日も近いな」
無関心な声音で「早く出てゆけ」と切り返され、瑠璃は苦笑した。
と、瑠璃が反対に尋ねた。
「ところで謙信様。
大崎との戦はどうなりなしたか?
もう、援軍は戻られましたか?」
「さぁな」
援軍はまだ帰還していなかったが。
政宗は大崎を攻めつつ黒川も攻めんとすると
軒猿から知らせを受けていた。
少々、長引くと謙信はみていた。