第52章 探り合いの戦
「私は藤原家にあって、価値の無い者だと言われ生きてきました。
どこか、良い家に嫁ぐだけが存在意義でした。
自由も無く、私の意思も意見も通りませんでした。
両親から愛されたと思った事もありませんでした」
瑠璃は天井の木目を見つめ淡々と続けた。
「けれど、政宗は、私に自由で良い、言いたい事は言っていいと、言ってくれました。
そして、初めて私を愛してくれました…
私の、正しい存在意義を与へてくれた。
…だから、私は政宗が生きるなら私の命など惜しく無い」
そこまで話して瑠璃は信玄の方を向いた。
その銀鼠色の瞳は強く輝いていた。
「私の命に変えても……政宗は私が守ります」
(命に変えても……その覚悟が……)
「例え、昨日の友が敵になろうとも、か」
「敵は敵、仕方ありません。この世においては恨みっこなしです」
「君は片眼の龍によく似ているね。
女にしておくのは勿体ないよ」
信玄が残念そうに言った。
「恐れ入ります」
「片眼の龍のところにはもう、謙信の援軍が着く頃だろうから、ゆっくり療養すると良い。
ここにいる間は、君は命の心配はいらないからね」
信玄の気が緩んだように感じた矢先、
「おーい、起きてるんだろ?
薬湯持ってきてやったぞ〜」
元気の良い声が掛かって、襖が開いた。
「信玄様は此処にいたのかよ」
「幸ー。
俺の甘味はないのかい?」
「はぁ?朝から蕎麦饅頭3個喰ったでしよーが!」
「あれは、小さいから5個くらいで、3つ分だ。だから、2個も食べてないよ」
「わー、出たよ、屁理屈〜。
ダメダメダメ!、絶対ダメだかんなっ。
瑠璃はコレ飲んで、また寝ろよ」
信玄に駄目出しをしながら傍に来ると、
盆ごと腰を下ろし、快活な少年の笑顔を見せる。
そんな幸村の事をジッと見つめた瑠璃が
「幸村って……」
「ん?」
「面倒見、良いんやね…」
と言って小さく笑う。
まだ力無い瑠璃の笑顔は儚く可憐だった。
「////…やっ、あっ、コレはっ、信玄様がっ、我が儘だから、つ、ついっ…」
幸村が紅葉みたいに真っ赤になる。
「ありがとうございます…お手を煩わせないよう、致します…」
そうは言ったものの、起き上がるのも一苦労で、信玄が手を貸してくれた。