第51章 独りの行方
「……ン………」
眼に入ったのは美しい木目の天井。
(どのくらい眠っていたのだろうか…)
首を横に回すと、髪の毛がザラっと音を立てた。
その音に、誰かが立ち上がり傍に歩いてきた。
「熱が酷いが気分はどうだ?」
静かに腰を降ろして尋ねる、静かな声音。
氷のような、御神渡りしてきた風のような、冷淡な声音。
視線を向ければ、色素の薄い髪に青と碧の瞳の美しい顔。
「……けん……ま……ぃ…悪…ですね…」
瑠璃自身はちゃんと出したと思ったが、
声は思う様にでていなかった。
「そうだろうな…懐剣は預かっているぞ」
「……」
瑠璃は笑いたかったが笑えなかった。
「…わ…し…の、かっこ…」
裸で寝かされていたのだった。
「お前が逃げ出さぬように、着物は捨てた」
いつも涼やかな謙信がニヤリと笑った。
「…けん…ん…さま…」
瑠璃の眼から大きな涙が溢れた。
(此処に居て良い、と言ってくれたー…)
疲れた軀と心が潤っていく気がした。
安心した瑠璃はまたすぐに目を閉じた。
瑠璃が瀕死でたどり着いたのは
上杉謙信の居城だった。
無理が祟った瑠璃は丸3日 熱に魘された。
その間、夜中は謙信が自分の傍に座って、
汗を拭き、薬湯を飲ませ、枕を正していた事を瑠璃は知らない。