第51章 独りの行方
「…しかし…これほど高価な物を貰っても、
貴女には馬は老馬しかあげられません。よろしいか?」
働ける若い馬を差し出すほど余裕がない夫婦。それでも、くれると言うのだ。
「はい、感謝…いたします…」
(老馬だろうが、ロバだろうが、今は…)
瑠璃には有り難かった。
瑠璃は痛む身体を折畳み、伏すように頭を下げた。
(これで…なんとか……)
下っていける。
けれど、馬を駆けさせたくとも、身体が痛んで、駆けさせられない。
(早く…早く…)
気持ちだけが急く。
決して暖かくはないこの季節、然も山中、陽射しもまばらだ。
ジワジワと瑠璃の体温と体力を奪っていった。
寒気と発熱を感じながらも進んだ。
瑠璃は昼はもちろん、獣の出る夜も出来るだけ進み続け、4日目の昼過ぎ、ようやく、目的地へやって来た。
降りようと馬を止める。
(目が回る……)
足が地につかないうちに手綱から震える手が離れ、落馬するようにドサッと身体で着地した。
自分の体を支えられる腕の力が今は無い。
四つん這いで這う様に門番の前まで来て
「…お…いします…取次いで下さい…」
消えそうな声で門番に縋った。