第50章 前方の敵
「ぅあっ、グッ、ぅ"あ"っ」
地面に落ちた衝撃で瑠璃は喉の奥から苦しい声を溢した。
そして、
声も出せないまま、何が何だか分からないままに地面を転がり滑り落ちる。
何かを考える余裕はない。
痛みを感じてもそれどころではない。
連続して身体中に走る衝撃は岩、木の根、枯れ木の残り株に突き当たるからだ。
打ち所が悪ければ死ぬかもしれない。
下は速水。
(政宗……)
ドボッ、ジャバッ‼︎
(…生きて……)
そう思っても意識が遠のいてゆく。
瑠璃は意識を失ったまま冷たい速水に身を沈めた。
薄い着物が水を含んで、
意識のない重い身体が浮くはずがない。
瑠璃の身体は、水量も多く、流れも速い渓流に巻かれた小枝か木の葉のように、
瞬く間に流されていった。
本陣に帰還した伊達軍。
「政宗様、大丈夫ですか?」
家来が真っ青な顔の政宗を心配する。
「俺は何ともない」
頬と右の二の腕に切り傷があるが血は止まっている。
逃げられた大崎義隆は大怪我だ。
今すぐ、これ以上深追する必要もない。
当面、大崎側が追って仕掛けて来るはずもない。
意気揚々と帰ってきても良さそうな政宗は覇気もなく傍目からも真っ青。