第50章 前方の敵
「⁉︎ッ…瑠璃‼︎」
政宗の声が瑠璃を追う。
瑠璃は崖に向かって振り切られて、傾いて行く。
「ハッ、ワシの勝ちだぁ‼︎」
左手の刀を政宗に真横一文字に斬り出す。
政宗は落ちて行く瑠璃を掴もうと左手を伸ばし、
危うい体勢から右の刀で相手の腕を払う。
その一瞬、政宗の頬に切っ尖が走った。
「ッッ」
しかし政宗は、その不安定な体勢から、
刀を逆手に持ち変えると、相手の軀に向かって思いっきり突き刺した。
「ぅ、ギャァァァ〜」
刺された痛みに悲鳴と共に相手が転がる。
それを横目に
同時に伸ばす政宗の左手。
だが、指先は瑠璃を掠めもしなかった。
振れる薄い着物の袖が、寸前を揺らして落ちる。
「瑠璃ぃーーーーッ‼︎」
落ちる瑠璃の瞳が自分を見て、
なんとか手を伸ばそうとして、
急速に遠退いて行った。